大腿骨頸部骨折は特に高齢者に多い骨折で、転んだ際に起こるケースがほとんどです。
大腿骨頸部骨折の手術として人工骨頭置換術が多く、最も注意しなければならいなのが脱臼です。
今回は大腿骨頸部骨折の手術やリハビリ、日常生活での注意点、回復の程度についてご紹介します。
大腿骨頸部骨折の現状とは?
大腿骨頸部骨折は高齢者にとても多い骨折の一つです。
2007年の発生数は男性役31300人、女性116800人と推計されています。
大腿骨頸部骨折は転倒することにより受傷することがほとんどです。
多くは普段生活している自宅の中で転倒する方が多いです。
まれに自転車で転んで大腿骨頸部骨折を受傷される方もいます。
それでは大腿骨頸部骨折についてご紹介していきます。
大腿骨頸部骨折とは?
大腿骨の骨折で多いのは大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折です。
今回は大腿骨頸部骨折についてご紹介いたしますが、その前に大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折の違いについてご説明します。
まず大腿骨の頸部と転子部の場所をイラストで確認してみましょう。
大腿骨の頸部はこのくぼみの部分で、転子部は外側の出っ張っている部分です。
頸部と転子部には特徴として大きな違いがあります。
それは血行です。
大腿骨頸部〜骨頭部は血行が乏しいのが特徴です。
これに対し転子部は血行が良好です。
大腿骨の血行をイラストでみてみましょう。
引用1)
外腸骨動脈系の大腿深動脈の分枝 → 内外側大腿回旋動脈
内腸骨動脈系の閉鎖動脈の分枝 → 大腿骨頭靱帯動脈
そのため大腿骨の頸部の骨折なのか、転子部の骨折なのかで治療方針は大きく変わります。
大腿骨の詳しい機能や解剖学はこちらでご紹介しています。
ご興味ある方はご覧ください。→大腿骨の解剖学はこちら。
大腿骨の骨折の治療方針とは?
基本的に大腿骨の骨折は手術療法が選択されます。
大腿骨頸部骨折では人工骨頭置換術またはボルトで骨を固定します。
大腿骨転子部骨折はボルトなどで骨を固定します。
このように骨折部分が頸部なのか転子部なのかで手術方法がかわります。
ポイントは大腿骨頸部骨折の場合、人工骨頭置換術になるということです。
ではなぜ頸部骨折では人工骨頭置換術になり、転子部骨折は骨を固定する手術になるのでしょうか。
それは先ほどご紹介した血行が関係しています。
大腿骨頸部〜骨頭部の血行は乏しいです。
そのため骨を固定したとしても、血行が乏しいことで骨が壊死を起こす可能性があります。
そのため大腿骨頸部骨折の場合は人工骨頭置換術が選択させることが多いです。
転子部骨折の場合は、比較的血行がいいため骨を固定して回復が見込めます。
人工骨頭置換術とは?
大腿骨頸部骨折は重症度によって4段階のレベルにわけられます。
有名なのがGarden分類というものです。
ステージⅠ・Ⅱは転移なしの骨折、ステージⅢ・Ⅳは転移ありの骨折です。
転移とは骨折した骨がズレている状態です。
人工骨頭置換術はGarden分類Ⅲ以上で適応になり、主治医の判断でⅡでも適応になることがあります。
Ⅰ〜Ⅱレベルは骨を固定する骨接合術、Ⅲ以上は人工骨頭置換術を行います。
引用2)
Ⅲ以上で行われる人工骨頭置換術は大腿骨頸部〜骨頭を人工のものに変える手術方法です。
このように大腿骨を切り人工の骨頭を入れることで新しい股関節を作ります。
この手術のメリットとして、手術後早期から荷重をかけ歩行練習を行えるということです。
高齢者で一番怖いのが、骨折をしたことによりベッドでの生活が中心になり体力が落ちることです。
体力が落ちると感染症や肺炎になりやすく、悪化すると最悪の場合亡くなる可能性があります。
しかし人工骨頭置換術を行うことで早期より歩行練習開始となるため、体力低下を防げ感染症や肺炎のリスクを抑えることができます。
日本の死亡原因の第3位に肺炎があるように、肺炎は高齢者にとってとても怖い病気です。
そのため早期に荷重や歩行練習が開始できるメリットを考え、高齢者の大腿骨頸部骨折の場合は人工骨頭置換術が選択されます。
デメリットとして、股関節脱臼をする恐れがあります。
人工関節のため臼蓋に新しい大腿骨頭を入れ込んでおりそれが脱臼してしまいます。
脱臼してしまうと、医者が徒手的に脱臼を治しますが治らなかった場合は再手術となります。
一度脱臼してしまうと脱臼クセになる可能性が高いため、脱臼予防がとても重要になります。
脱臼の注意点とは?
脱臼する姿勢として股関節を内側に捻り曲げることです。
内股の姿勢がダメということです。
このように内股になると股関節が脱臼します。
このように膝が外側を向いていれば大丈夫です。
それでは日常生活で脱臼する場面をご紹介します。
《物取り動作》
このように床の物を取る際に脱臼する可能性があります。
物に対してカラダを正面に向け、必ずガニ股で行ないましょう!
《靴や靴下の着脱方法》
足の外側から履こうとすると脱臼します。
必ず足の内側から履くようにしましょう。
高齢者の方は昔ながらの床での生活を送られている方が多いです。
例えば布団で寝ている方、こたつを利用されている方、お風呂で床に座る方などいらっしゃると思います。
この生活動作は股関節脱臼する可能性が高い動作です。
布団で寝ている方はベッドに変えることをお勧めします。
布団からの立ち上がりは安全に行わないと脱臼するリスクが高い動作の一つです。
高齢になると筋力も落ちるため、布団から立ち上がる際にふらついたり脱臼姿勢を取る可能性が非常に高くなります。
こたつを利用される方も多いと思いますが、こたつの利用は避け方が安全です。
こたつに足を入れる際、床に座り深く足を曲げなければなりません。
これは非常に脱臼リスクが高い姿勢となります。
お風呂場でカラダを洗う際に、床に座ったり低い椅子を利用している方もいらっしゃるのではないでしょうか?
股関節を深く曲げると脱臼してしまします。
そのためお風呂では高めの椅子を利用し体や頭を洗うようにしましょう。
椅子の高さ45㎝以上にしましょう。
45㎝以上にすることで座った際に股関節の曲がる角度は少なくなります。
この椅子の高さは約45㎝です。
これ以上椅子が低いと股関節が脱臼する可能性があります。
股関節の脱臼は人工股関節全置換術でも起こるリスクの一つです。
人工股関節全置換術に関してはこちらでご紹介しています。
ご興味がある方はご覧ください。→人工関節全置換術についてはこちら。
手術後のリスクとは?
手術後のリスクは脱臼と深部静脈血栓症が特に重要です。
脱臼は先ほどご紹介したので、深部静脈血栓症についてご紹介します。
深部静脈血栓症は結果に血の塊(血栓)ができてしまうことです。
みなさんもご存知のエコノミークラス症候群がこのことです。
血栓ができ飛んでしまうと肺塞栓症になることがあります。
肺塞栓症とは飛んだ血栓が心臓を通過し肺へ流れる血管に詰まってしまうことです。
肺塞栓症になると肺への血流が途絶え、呼吸苦等を訴えます。
深部静脈血栓症の予防方法はこのように足首をよく動かすことです。
このように足首を動かしましょう
以前に深部静脈血栓症についてご紹介しています。
ご興味がある方はこちらをご覧ください。→深部静脈血栓所についてはこちらから。
人工骨頭置換術後のリハビリとは?
リハビリは手術の翌日から開始となります。
まずは関節を動かす練習から始まります。
痛みが強くなければ手術翌日から座る練習や車椅子に乗る練習を開始します。
立つ練習や歩行練習は手術の2〜3日後から開始になるケースが多いです。
この時期は手術の影響による炎症症状が強いため、股関節の周りに痛みがみられます。
炎症症状は、患部が熱い、腫れ、赤くなっている、痛みです。
手術直後はこの炎症症状を抑えることが非常に重要です。
炎症が長引くと痛み取れず退院まで時間がかかります。
炎症に対しての効果的な対処方法としてRICE療法があります。
RICE療法は挙上、アイシング、圧迫、安静のことです。
股関節の場合は特にアイシングが重要です。
アイシングをすることで痛みも減ります。
RICE療法や効果的な炎症管理の方法について、以前にこちらでご紹介しています。
ご興味がある方はご覧ください。→効果的な炎症管理についてはこちらです。
順調にリハビリが進み早い方では1ヶ月程度で退院になります。
私の経験では1〜2ヶ月程度で退院する方が多いです。
2ヶ月以上かかりそうな方は、回復期リハビリ病棟に移動しリハビリ集中的に行ったりします。
高齢者で大腿骨頸部骨折をし手術をした場合、入院前と同様の歩行レベルや生活動作レベルに回復すれば120点です。
高齢であるため体力の低下や筋力の回復が遅く、退院時のレベルは入院前より落ちることがほとんどです。
例えば 杖なしで歩いていた→杖歩行で退院
外を杖で一人で歩いていた→杖で歩けるが見守りが必要 などです。
入院中のリハビリの目標はまず日常生活が送れるレベルであるため、入院前のレベルまで戻すには入院中のリハビリだけでは難しく、退院後のリハビリも重要になります。
大腿骨頸部骨折後はどのくらい回復するのか?
先ほど、高齢であるため体力の低下や筋力の回復が遅く退院時のレベルは入院前より落ちることがほとんどとご紹介しましたが、これは退院時の状態です。
長期的にみると入院前のレベルまで回復する方もいらっしゃいます。
中山らによると、平均33.6ヶ月(約2年9ヶ月)で90.4%の症例が術前と同能力を再獲得したとされています。
このことからも入院前のレベルまでに回復するには時間がかかるということです。
大腿骨頸部骨折の回復には、認知症の有無が大きく関与しています。
歩行再獲得に関し藤井らは、認知症がある場合35.6%、認知症がない場合71%としています。
成田らは、歩行再獲得を認知症がない65〜79歳の場合76.4%、80歳以上は54.7%の割合でできるとしています。
認知症がある65〜79歳で13.3%、80歳以上で11.8%で歩行再獲得可能としています。
このことから認知症が大きく関与していることがわかります。
認知症がある場合は周りの人のサポートがとても重要になります。
まとめ
大腿骨頸部骨折は高齢者に非常に多い骨折です。
手術は人工骨頭置換術を選択するケースが多く、メリットとして早期から荷重や歩行が開始となります。
デメリットとして、脱臼があるため特に注意が必要です。
そのため環境の設定を行い脱臼をしないようにすることがポイントです。
手術後にリハビリを行いますが、退院時に入院前のレベルまで回復することは難しいです。
退院後に日常生活を送ることで徐々に回復してくるため、長い目でみるといいです。
大腿骨頸部骨折は高齢者に多い骨折のため、認知症の方も多くいらっしゃいます。
そのため生活する上で周りのサポートが重要になります。
今回は大腿骨頸部骨折や人工骨頭置換術についてご紹介しました。
これからどんどん高齢者が増え大腿骨頸部骨折の人数も増えていくため、頭の片隅に入れておきましょう。
トピック
今年の24時間テレビまで残り数日ですね。
今年のマラソンランナーは当日まで非公表ですが、私の予想としては坂本トレーナーの可能性もあると考えています。
坂本トレーナーは数年前に人工股関節の手術をされましたが、マラソン復帰するためにリハビリなどを頑張ってきたそうです。
詳しくはこちらでご紹介していますので、ご興味がある方は観てみてはどうでしょうか。
⇒24時間テレビのランナーは坂本トレーナーかも?! 人工股関節の手術して復活か!?
参考・引用文献
1)藤岡幹浩:大腿骨頭壊死症とは.整形外科看護18(9).904-909, 2013.
2)Mainsより:http://minds.jcqhc.or.jp/n/medical_user_main.php
3)浅海浩二:人工骨頭置換術.整形外科看護19(6). 602-605.2014
4)中山義人ら:高齢者の大腿骨頸部内側骨折の予後.東日臨整外会誌.8.P13-17.1996
5)藤井裕之ら:軽微な外力による大腿骨頸部骨折後の歩行能力 影響を与える因子と予防についての考察.中部整災誌.49.P1137-1138.2006
6)成田穂積ら:80歳以上の超高齢者に生じた大腿骨頸部骨折の治療及び予後の検討.東日臨整外会誌.15.P194-197.2003
コメントを残す