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人工股関節全置換術の術後のリハビリや脱臼リスクとは?!スポーツ復帰や変形性股関節症についても解説!

人工股関節全置換は変形性股関節症などで股関節に痛みがあり、それを取り除くために行われる手術です。

今回は人工股関節全置換がどのような手術なのか、脱臼リスク、リハビリやその後の生活・スポーツ活動、変形性股関節症についてご紹介します。

 

人工股関節全置換術は、股関節疾患の中でも特に多い変形性股関節症に対して行われる手術です。

まず股関節の構造や変形性股関節症について解説してから、人工股関節全置換術について詳しくご説明します。

 

股関節と変形性股関節症とは

さっそく股関節の構造や変形性股関節症について解説していきます。

 

股関節の構造とは

股関節は骨盤の寛骨(かんこつ)にある臼蓋(きゅうがい)と、大腿骨の大腿骨頭(だいたいこっとう)で構成される関節です。

 

関節の可動性はとても大きいのか特徴で、股関節をグルグルと様々な方向へ動かすことができます。

股関節の周りには多くの靱帯や筋肉がついており、それらによって関節は安定しています。

 

では、なぜ股関節は痛くなるのでしょうか。

股関節が痛くなる原因は様々ですが、なかでも特に多いのが変形性股関節症です。

 

変形股関節症とは

変形性股関節症とは股関節が変形してしまった状態で、股関節にある軟骨がすり減ってしまったりすることで痛みが生じます。

 

変形性股関節症は、男性に比べ女性に多いことが特徴で、50歳以降の中高年に見られます。

変形性股関節症のガイドラインとによると以下のように言われています。

単純X線診断によるわが国の有病率は1.0〜4.3%で,男性は0〜2.0%,女性は2.0〜7.5%と女性で高い.

引用:(旧版)変形性股関節症診療ガイドラインより

 

変形性股関節症の原因とは

変形性股関節症の原因で多く見られるのが次のようなものです。

 

〜変形性股関節症の要因〜

先天性股関節脱臼

臼蓋形成不全

負担のかけすぎ など

 

変形性股関節症は遺伝の可能性もあるのでしょうか。

変形性股関節症のガイドラインによると

GradeB 変形性股関節症の発症に遺伝の影響はある.

引用:(旧版)変形性股関節症診療ガイドラインより

 

中等度の信憑性はありますが、必ずしも遺伝であるとは言えません。

 

変形性股関節症になる要因として先天性股関節脱臼があります。

先天性股関節脱臼は生まれつき脱臼しているとされていました。

 

しかし数年前に産まれてからの抱っこの仕方などが原因で脱臼が起こるという意見が通例となったため、先天性股関節脱臼から『発育性股関節形成不全』に名前が変わっています。

 

遺伝によって臼蓋形成不全が起こることもあるため、臼蓋形成不全によって脱臼が起こる可能性がある状態で抱っこの仕方を間違えて行ってしまうことで脱臼してしまうのかもしれません。

 

病態としては、周産期に緩みのある赤ちゃんの股関節が、下肢を伸ばした位置でオムツをするなどの間違った育児習慣によって外れていくことが多いと言われています。脱臼は生まれた後に発症するのだという議論から、最近は先天性というより発育性股関節形成不全と呼ばれるようになりました。

引用:日本整形外科学会HP

 

先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)について、病態や原因、予防方法など詳しく解説しています。

ご興味がある方はこちらをご参考にしてください。

⇒先天性股関節脱臼の病態や原因、予防方法、治療についてはこちら。

 

二次性変形性股関節とは

発育性股関節形成不全のように子どもの頃からの要因以外に、大人になってからも股関節に負担をかけ続けることで発症することがあります。

 

たとえば60歳以上の方で変形性股関節症が起こる要因として、骨盤が後傾し腰椎が後彎しているケースが多いです。

骨盤後傾や腰椎後彎とは、ようは猫背のように背中が少し丸まっているような姿勢です。

 

このように骨盤が後傾することで骨盤の寛骨と大腿骨の大腿骨頭の適合性が悪くなります。

これにより股関節に負担がかかり発症することがあります。

 

この他には、肥満やスポーツで過度に股関節に負担をかけすぎることでも発症するケースがあります。

 

こちらは変形性股関節症診療ガイドラインです。

GradeAは信憑性が高いものであり、肥満とスポーツは変形性股関節症と関係があることがわかります。

 

GradeA 肥満とスポーツは,欧米人の変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.

GradeA 職業(重量物の作業従事者)は変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.

GradeB 臼蓋形成不全は,変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.

GradeC 先天性股関節脱臼の既往は、変形性股関節症の発症のリスクファクターになる.

引用:(旧版)変形性股関節症診療ガイドラインより

 

変形性股関節症の症状とは

変形性股関節症の症状として、一番多いのは股関節の痛みです。

立ち上がり時や歩行時など、股関節に体重をかけた際に痛みが生じます。

 

痛みの他には関節可動域制限が生じます。

股関節の動きが硬くなり、足が開かなくなったり、靴下を履くのが大変になったりします。

 

痛みや関節の動きが固くなることで、歩き方も変わります。

 

歩き方の特徴とは

変形性股関節症の方でよく見られる歩き方の特徴は2つあります。

イラストの右(b)がデュシェンヌ歩行、左(a)がトレンデレンブルグ歩行です。

一つ目は、デュシェンヌ歩行です。

歩行時に股関節が変形している側へカラダを倒しながら歩きます。

 

二つ目は、トレンデレンブルグ歩行です。

デュシェンヌ歩行はカラダが大きく倒れるのが特徴ですが、トレンデレンブルグ歩行は骨盤の動きが特徴的です。

変形している股関節側へ体重をかけた際に、反対側の骨盤が下にさがります。

 

このような歩き方は股関節に負担がかかりそうに見えますが、実はその反対で股関節に負担をかけないように自然と起こるカラダの反応です。

そのため歩いている本人はカラダが傾いていることに気づきにくく、周りの人から言われて気づくことが多いです。

 

この場合、無理に真っ直ぐ歩くように意識しすぎず、一度病院などの医療機関で理学療法士に歩き方をチェックしてもらうといいでしょう。

そうすることで股関節に負担の少ないその方に合った適切な歩き方を指導してくれると思います。

 

変形性股関節症の診断とは

変形性股関節症の診断は、レントゲン検査や問診などで行われます。

 

レントゲンを取ることで、股関節の変形度合いや骨と骨の隙間の度合いがわかります。

 

変形の度合いは4段階の病期に分けられます。

 

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〜4段階の病期〜

前期股関節症】

関節裂隙の狭小化なし。臼蓋形成不全あり

 

【初期股関節症】

股関節の不適合あり,軽度の骨棘形成,臼蓋の骨硬化あり

 

【進行期股関節症】

部分的な関節裂隙の消失,骨棘形成,骨嚢胞形成

 

【末期股関節症】

広範囲な関節裂隙の消失・骨硬化,著明な骨棘形成,骨嚢胞形成

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変形性股関節症の方のレントゲンでは、骨棘(こつきょく)といって骨の出っ張りがあったり、本来丸い形をしているはずの大腿骨頭が楕円形になっていたりします。

 

股関節を構成する寛骨の臼蓋形成不全の診断は、角度を計測します。

〜臼蓋形成不全の検査法〜

CE角度

シャープ角度

AHI角度

 

CE角やシャープ角などの計測方法や正常値などはこちらで詳しくご紹介しています。

ご興味がある方はこちらをご参考にしてください。

⇒EC角やシャープ角の計測方法や正常値はこちら。

 

変形性股関節症の治療とは

変形性股関節症の治療として、保存療法と手術療法があります。

変形性股関節症状の進行状況や痛み、日常生活の状態などを考慮し、治療方法が選択されます。

 

股関節が変形していてもあまり痛みがなく日常生活を送れていれば手術をしないこともありますし、あまり変形していなくても痛くて日常生活を送ることが大変な場合は手術をすることがあります。

 

保存療法とは

保存療法は、薬の使用やリハビリを行い治療する方法です。

手術を行う前にまず保存療法で様子をみて、その状態で手術を行うかどうか検討をします。

 

リハビリでは、股関節への負担を減らす歩き方の練習や関節可動域制限の緩和、筋力増強などを行い、股関節への負担を減らすことを目的とします。

 

保存療法はしばらく様子をみて、それでも変わらない場合に手術療法が選択されます。

 

手術療法とは

変形性股関節症の手術として多く行われているのが、人工股関節全置換術です。

人工股関節全置換術は、股関節を構成する寛骨の臼蓋と大腿骨の大腿骨頭を人工の関節に入れ替える方法です。

臼蓋や大腿骨頭が変形したことで痛みが生じていましたが、この部分を人工の関節にすることで、軟骨のすり減りや関節の変形がすべて解消されるため、関節の問題によって生じていた痛みはなくなります。

手術後に生じる痛みは、手術の影響による炎症症状、動きが硬かった関節を伸ばすことで生じる筋肉の伸張痛などが生じます。

 

手術の炎症による痛みや切ったことによる痛みは1〜2週間程度で消失します。

 

手術後のリハビリとは

手術後は翌日よりリハビリが開始となります。

手術後は炎症症状が強いため、まずは炎症管理から行います。

痛みに合わせ、関節を動かしたり歩行練習も行っていきます。

 

入院期間は病院ごとで多少異なりますが、早いところでは手術後1週間程度の入院、多くは2〜3週間程度の入院期間となっています。

 

退院時は外を歩ける状態になって帰られる方がほとんどです。

手術をした多くの方が『もっと早く手術をすればよかった』といいます。

 

手術前は股関節が痛くて歩くのも大変だったのが、手術をすることで手術前の股関節の痛みがなくなるからです。

手術をしたことで、今まで旅行やスポーツなどできなかったものができるようになった方が多くいます。

 

手術=悪いというイメージを持ちやすいですが、変形性股関節症の手術は“痛くて生活の幅が狭くなっているのを、手術で痛みを取り除いて生活の幅を広げること”を目的としているため、良いイメージを持っていいでしょう。

 

手術後の注意点とは

人工股関節全置換術の手術後に特に注意しなければならないのが脱臼です。

 

人工股関節全置換術は人工の股関節を入れ替えているため、股関節が脱臼する恐れがあります。

脱臼してしますと、激痛が生じ、歩けなくなり救急車で運ばれることがほとんどです。

 

そのため脱臼しないように注意することが重要です。

 

脱臼とは

 

脱臼とは、その名の通り股関節の臼蓋から大腿骨頭が外れてしまう状態です。

 

脱臼が起こる可能性は手術方法によっても多少異なりますが、およそ1〜4%程度であり脱臼には常に注意する必要があります。

 

脱臼は足を内股にすることで起こります。

 

例えば靴を履くときに内股になったり、床の物を拾うときに内股になりやすいです。

内股にならないように必ずカラダの位置を変えて動作を行いましょう。

 

〜脱臼しやすい動作〜

靴の着脱

床の物を拾う

高いものを取る など

このような動作は特に注意しましょう。

 

靴の着脱の注意点

足の外側から靴下を履くと、股関節は内股になり脱臼するリスクが高いです。

 

靴下を履く時は、必ず足の内側から手を伸ばし履きましょう。

 

床の物を拾う

靴下の着脱と同じように足の外側から手を伸ばすと脱臼する恐れがあります。

 

床の物を拾う際も、必ず足の内側から下に向かって手を伸ばしましょう。

 

足を伸ばしても脱臼する

股関節の脱臼は曲げた状態での内股で脱臼することが多いですが、股関節を伸ばしても脱臼することがあります。

写真のように股関節を前に出しすぎると前方へ脱臼する可能性があります。

背伸びや股関節を伸ばさない高さの物に変えたほうがよいでしょう。

 

手術後はスポーツを行えるのか

人工股関節全置換術(THA)後のスポーツ活動に関する研究の報告をご紹介します。

 

週1時間以上のスポーツ活動を行っている患者の割合は,THA患者では術前36%から術後52%に改善したとう報告があります。

 

年齢,術前および生涯のスポーツ活動レベルが有意な影響因子で,患者がスポーツ活動を制限する主観的理由としては患部疼痛,他部位疼痛,医師による注意指示が主なものであった

 

手術前に比べ手術後の方がスポーツをできるようになった割合は多いです。

しかしスポーツ復帰についてはスポーツ活動レベルも影響しており、痛みの影響や医師の注意指示によってスポーツ活動を制限していることもあります。

 

スポーツができるようになる可能性がありますが、その場合はしっかりとリハビリを行いスポーツをしても耐えられる股関節を作ることが最低条件となります。

 

人工股関節全置換術は人工物のため、負担がかかりすぎると破損する恐れもあります。

スポーツを行う場合は、しっかりと医師や理学療法士と相談し、スポーツの種目レベルや内容を決めるようにしましょう。

 

まとめ

今回は変形性股関節症についてご紹介していきました。

変形性股関節症は股関節疾患の中でもメジャーです。

 

身の回りの方でも股関節に痛みがある方もいらっしゃると思うので、変形性股関節症の病態や治療方法を知っておくとよいでしょう。