先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、変形性股関節症の方はスポーツをしない方がいいのでしょうか。
このような股関節疾患とスポーツ活動の報告は少ないのが現状です。
今回は股関節疾患とスポーツについて考え、ストレッチや筋トレもご紹介します。
変形性股関節症の方は120〜420万人とされおり、日本人の人口の約1.0〜3.5%です。
変形性股関節症は徐々に股関節が変形してくる疾患です。
変形は関節の軟骨変性や摩耗(まもう)から始まり、進行すると骨棘(こつきょく)という骨のとげのような物ができ形態の変化へと進行していきます。
変形性股関節症の原因として、現在では必ずしも先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が原因とはされていません。
変形性股関節症の方の既往歴に先天性股関節脱臼等がない方もいらっしゃいます。
若いうちは大きく問題になることはほとんどありませんが、50〜60歳ぐらいになると生活歴や姿勢などさまざまな要因が重なり、痛みなどの症状が出てくることがあります。
痛みがでないようにするには、股関節に負担をかけすぎないようにすることが重要です。
話を戻しますが、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、変形性股関節症がある方はスポーツなど行わない方がいいのでしょうか。
医者からは「問題ないからどんどんやっていいよ」と言われることはほとんどないと思います。
きっと「極力やらないほうがいい」もしくは「痛みが出ない範囲で軽い運動程度なら・・・。」と言わるでしょう。
今回は股関節疾患とスポーツについて私的な考えを中心に書かせていただくため、これがすべて正しいというわけではありませんので予めご了承ください。
股関節疾患とは?
最初に先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、変形性股関節症について簡単にご紹介します。
これらの股関節疾患は女性に多くみられるのが特徴です。
ちなみに先天性股関節脱臼は名前が変わり、現在は発育性股関節形成不全になっています。
今回はわかりやすいように先天性股関節脱臼でお話させていただきます。
先天性股関節脱臼は「先天性」とついていますが、実は産まれてから股関節が脱臼することがほとんどです。
先天性股関節脱臼は産まれて3〜4ヶ月検診の時に見つかることが多いです。
しかし、なかには見落とされるケースもあり歩き始めてから脚を引きずっていたため発見されることもあります。
検診に来ている医者は小児専門の整形外科医でないことが多く、実は見落とされることも少なくないようです。
以前にこちらのブログで先天性股関節脱臼についてご紹介しています。
主に先天性股関節脱臼の原因や予防法、脱臼の検査方法についてです。
出産を控えている方や出産して間もない方は、ぜひ一度ご覧になることをお勧めします。
臼蓋形成不全とは股関節を構成する臼蓋が浅く、大腿骨頭との接地面積(かぶり)が少ない状態です。
基本的に乳児期の臼蓋形成不全は成長と共に自然に改善していくと考えられています。
変形性股関節症は先ほどご紹介したように、股関節の変形が進行する疾患であり痛みを伴うことがあります。
臼蓋形成不全などが原因となることもありますが、明らかな原因となる疾患がなくても発症することがあります。
股関節疾患はスポーツを行えるのか?
股関節疾患の方はスポーツをどこまで行っていいのか、これは患者さんだけでなく医師や理学療法士などの医療従事者も悩むところです。
正直、今の私にはどちらがいいのか答えを出すことはできません。
仮に運動はしない方がいいと言われても、年齢や環境によっては完全に運動やスポーツをやらないことは難しいこともあると思います。
ではどうすればいいのでしょうか。
運動を制限すること以外の対策としては、極力関節に負担をかけないようにすることです。
重要なのは関節の同じ場所ばかりに負担をかけないようにすることです。
同じ場所ばかりに負担がかかると、その部分は変形や変性が進みやすくなります。
では股関節の負担を減らすにはどうすればいいのでしょうか。
股関節への負担を減らすには?
股関節へ負担を減らす方法は色々ありますが、スポーツで考えるのであれば負担をかけている動作・姿勢を改善することが重要です。
股関節疾患の方は関節可動域が狭くなっていることがほとんどです。
関節が動かなくなってしまうと決まった範囲でしか関節は動けず、毎回同じ場所に負担がかかってしまいます。
この状態でスポーツを行うと常に同じ場所へ負担がかかります。
本来、股関節は球関節のためクルクルと滑らかに動きますが、股関節が変形しているとその動きが阻害され関節が動かなくなってしまいます。
変形以外には筋肉などの軟部組織が固くなり関節が動きにくくなっていることもあります。
変形自体は人工関節に変えないと治りませんが、筋肉などの軟部組織による硬さであれば改善する余地はあります。
少し話を戻しますが、先ほど臼蓋形成不全は臼蓋が浅いため大腿骨頭のかぶり(被覆率)が少ないとお伝えしましたね。
このように臼蓋のかぶりが少ないと、臼蓋と大腿骨頭の接地面積は少ない状態になります。
これを補うためにヒトのカラダは自然とかぶりを良くするように働きます。
このように骨盤を前傾させることで、臼蓋の向きが下を向き被覆(接地面積)が広がります。
臼蓋と大腿骨頭はこのような状態になります。
このように接地面積を広げるには、骨盤を前傾させ臼蓋の向きをさらに下に向けます。
このように変形性股関節症の方は接地面積を広げるために、代償として骨盤が前傾していることが多いのです。
なかには腰が痛い方がいらっしゃるのではないでしょうか。
この腰痛は骨盤前傾と関係しています。
しかし、この骨盤前傾はヒトの自然なカラダの反応なため良いことです。
そのため私個人としては、無理に骨盤前傾を修正する必要はないと思います。
ですが骨盤前傾位で固くなってしまうと腰痛にもつながるため、よくありません。
大切なのは骨盤後傾の可動域があることです。
骨盤前傾位にし被覆率(かぶりの広さ)を高めるのはいいことですが、その状態のみで股関節を使い続けると臼蓋や骨頭の同じ部位ばかりに負担がかかります。
スポーツではさまざまな姿勢で動作を行うため、骨盤が動かないと股関節への負担は大きくなります。
例を一つあげてみましょう。
『脚を曲げる=股関節の動き』と思っている方が多いのではないでしょうか。
脚の動きは股関節自体の動きと骨盤の動きが合わさることで起こります。
股関節自体の可動域はもちろん大切ですが、これに加え骨盤がしっかりと動かないとその分股関節が動かなければいけないため負担がかかります。
こうならないためにも股関節自体の可動域の確保に加え、骨盤前後傾の可動域を確保することが大切です。
骨盤前後傾はこのように行ってみましょう。
股関節への負担を少しでも減らすために、負担のかかる動作・姿勢をみつけカラダ全体から調整することが大切です。
負担のかかる動作・姿勢を自分で見つけ出すのは難しいため、動作分析を専門とする理学療法士にリハビリの際に聞いてみてください。
カラダ全体から調整する場合、骨盤以外の体幹やその他の関節の可動域も大切になります。
体幹・胸郭のストレッチ方法はこちらでご紹介しています。
ご興味がある方はご覧ください。
関節可動域以外には筋力も重要です。
可動域があったとしても筋力がなければ関節は安定しません。
臼蓋形成不全や変形性股関節症の方々は恥骨筋や長内転筋、大腿筋膜張筋などの筋肉が過剰に働いていることが多々あります。
多くの人は圧痛(押すと痛い)があるのではないでしょうか。
これに対し股関節で重要な中殿筋や外旋筋(深層外旋6筋)、大殿筋などの筋力はうまく働いていておらず、関節に負担のかかりやすい状態となっています。
このようにカラダの中でも過剰に働いている部分と働いていない部分があるため、筋力トレーニングを行う前に過剰に働いている筋肉のマッサージやストレッチをし柔らかくしてから行うと効果的です。
変形が進行するにつれて大腿骨頭は臼蓋に対し上外方へ変化し、大腿骨頸部の部分が短くなります。
大腿骨頸部が短くなることで中殿筋(緑の線)の付着部である大転子は上の方へ移動し、中殿筋は縮んだ状態になります。
このような状態では中殿筋は働きづらく、筋肉の力を発揮しづらい状態となります。
これを少しでも防ぐために、痛みに合わせ早期から中殿筋の筋力トレーニングは行っておいたほうがいいでしょう。
中殿筋のトレーニング方法はこちらでご紹介しています。
わからない方はこちらをご覧ください。
まとめ
今回は先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、変形性股関節症とスポーツの関係についてご紹介してきました。
重要なのは負担をかけている動作・姿勢をみつけること、一つの場所に負担がかからないようにすること、可動域や筋力を獲得しておくこと、負担となっている動作・姿勢を修正することです。
今回は先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全、変形性股関節症とスポーツの関係について一つの考え方をご紹介しました。
トレーニング方法もいくつかご紹介しましたがほんの一例であるため、ご自身にあったやり方をみつけ行ってみてください。
カラダ全体をうまく使い、股関節へ負担のかからない動作・姿勢を獲得しましょうね!
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