女性アスリートで問題となっている『アスリートの三主徴』を知らないと、疲労骨折などの大きなトラブルを引き起こしてしまいます。
今回は、注意すべき三主徴や予防方法についてご紹介します。
近年、女性アスリートの活躍が多くみられます。
2020年の東京オリンピックに向け、さらなる女性アスリートの活躍が期待されています。
女性アスリートが活躍する反面、継続的に厳しいトレーニングを行っている女性アスリートの健康障害も問題視されており、『女性アスリートの三主徴』というものがあります。
この三主徴を予防・改善することが、女性アスリートのさらなるパフォーマンス向上や障害予防、健康問題の改善につながります。
女性アスリートの三主徴とは?
女性アスリートの三主徴つ以下の3つです。
〜三主徴〜 Low energy availability(エネルギー不足) 無月経(生理) 骨粗鬆症
この3つは特に重要なため、注意する必要があります。
では、なぜアスリート女性の三主徴を予防しなければならないのでしょうか。
三主徴を予防する理由とは?
競技種目によってパフォーマンスを向上させるためにスリムな体型を求め、食事の摂取量を減らし減少を図る選手が多くいます。
しかし摂取量を抑えることで、利用可能なエネルギー量が減ってしまいます。
これによりホルモンバランスが崩れ骨密度の低下につながり、この状態で厳しいトレーニングを継続することで疲労骨折や貧血、靭帯損傷などの大きなトラブルを引き起こしてしまいます。
しかし『女性アスリートの三主徴』に対し意識が低いのが現状です。
以下のような報告もあります。
わが国のトップアスリートの婦人科受診率は4%、月経困難症を認めるアスリートでの受診歴も10.6%と、十分な対策がなされていない現状にある 引用1)
このようにアスリートの三主徴が重要と言われながらも対応が追いついていません。
アスリートの三主徴に対し、スポーツアメリカ医学会(ACSM)や国際オリンピック委員会(IOC)は予防等の対応が必要と呼びかけています。
エネルギー不足とは?
スポーツをする上でエネルギーはとても重要で、エネルギー不足になるとホルモンバランスの崩れなど、さまざまな影響がカラダへ生じます。
三主徴の一つである『Low energy availability』のenergy availability(以下:EA)とは、エネルギー摂取量から運度によるエネルギー消費量を引いた値のことです。
このenergy availabilityが低い状態(Low)が、Low energy availabilityです。
以下のような報告があります。
EAの値が除脂肪体重1kgあたり30kal/day未満になるとLHパルスの分泌が減少し、月経異常につながる 引用2)
つまり、摂取したエネルギーを運動で使ったあとに残ったエネルギーの量が、低すぎるとホルモンの分泌が減少して、月経に異常が起こってしまうということです。
無月経(生理)や月経困難症とは?
厳しいトレーニングやエネルギー不足により無月経や月経困難症につながります。
これによりホルモンバランスが崩れ、疲労骨折などのカラダへのトラブルの引き金となります。
月経困難症は、パフォーマンスの低下をもたらす疾患であり、痛みなどによって練習量を減らし調整するアスリートもいます。
また試合と重なり、十分なパフォーマンを発揮できないこともあるため、予防や対策が重要となります。
骨粗鬆症とは?
骨粗鬆症とは、骨密度が低い状態です。
骨密度が低いということは、骨の強度が弱いということです。
アスリートの場合、高いレベルで厳しいトレーニングを行っているため、カラダには常に高負荷がかかっています。
通常耐えられる負荷であっても骨密度の低い女性アスリートの場合は、疲労骨折を引き起こしています可能性が十分にあります。
疲労骨折は完治するまで時間がかかるため、パフォーマンスの低下や最悪の場合は引退になる可能性もあります。
三主徴の予防方法とは?
女性アスリートの三主徴は日本のみならず世界中で問題視されており、中学・高校生の時期から教育をしていくことが重要です。
エネルギー不足の指導
エネルギー不足に関しては、栄養指導が基本となり、これに加え心理面に対してのフォローも重要となります。
体型がスリム=良いパフォーマンスができる、というわけではないこともしっかりと指導する必要があります。
〜摂取エネルギー量〜
一般女性:1800〜2000kcal/日
アスリート女性:500〜1000kcal/日の追加摂取が必要
月経困難症の指導
月経困難症に対して、月経教育に加え、婦人科の受診を勧めましょう。
試合と月経が重なり場合は、月経周期移動も考慮する必要があります。
痛みが強いアスリートに関しては投薬も検討することもあります。
受診するタイミングとして試合直前では副作用等の問題も関係するため、数ヶ月前に婦人科を受診し医師と相談し試合に向けて調整することがよいでしょう。
骨粗鬆症の指導
骨粗鬆症の予防は、エネルギーをしっかりと摂取し、ホルモンバランスを崩さないことです。
骨密度を上昇させるには、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKの摂取も重要となります。
摂取目標量はカルシウム800mg/日、ビタミンD400〜800IU/日、ビタミンK250〜300μg/日 引用3)
食事の見直しに加え、骨密度の検査も行うと良いでしょう。
現状の骨密度を把握し、ケガをする可能性を把握することも重要です。
まとめ
女性アスリートの三主徴は問題となっており、カラダのトラブルやパフォーマンスの低下につながります。
これは女性アスリートのみの問題ではなく、周りでサポートする指導者や保護者など女性アスリートに関わる全ての方が知っておくべき知識です。
女性アスリートの三主徴を予防・改善していくには、関わる全ての方の力が必要となります。
《参考・引用文献》
1)能瀬さやか他:女性アスリートの月経困難症.産科と婦人科39(3).277-283.2015
2)小清水孝子:女性アスリート3主徴-Low energy availability.産科と婦人科82(3).260-264.2015
3)能瀬さやか他:女性アスリート3主徴-骨粗鬆症.産科と婦人科27(3).265-269.2015