大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折は高齢者でとても多い骨折です。
退院後の生活で転倒リスクの軽減や介護量を軽減させるために、ご自宅の環境調整やサービス利用がとても重要です。
今回はご自宅で生活するにあたり、環境調整(手すり、福祉用具)やサービス利用のポイントをご紹介します。
大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折は高齢者でとても多い骨折で、この二つを合わせて大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶ骨折)といいます。
2007年の大腿骨近位部骨折発生数データでは、男性が約31300人、女性が116800人と推計されています。
特に女性に多い骨折で、年齢が上がれば上がるほど受傷する可能性が高くなります。
この骨折は骨粗鬆症との関係も深く、骨粗鬆症患者で多く受傷する傾向にあります。
以前に骨粗鬆症について詳しくご紹介しています。
ご興味がある方はご覧ください。
大腿骨近位部骨折後の身体機能は、骨折前に比べるとやや低下してしまう傾向にあります。
例えば、お家の中をどうにか一人で歩いていた人の場合、骨折後は見守りや介助が必要な状態になってしまうことがあります。
必ず低下するわけではありませんが、骨折前の身体機能レベルが低い人ほど骨折後の身体機能に影響が起こりやすいのです。
私の経験上、元々杖を使わずに屋外を歩き身体機能レベルが高い方の場合、屋外杖歩行レベルもしくは杖なし歩行レベルまで回復できる可能性があります。
このようにお家の中でどうにか生活できていたレベルの場合は、退院後の介助量・転倒リスクの増加が予測されるため、しっかりと環境調整やサービスの利用を検討していかなければなりません。
それでは環境調整とサービス利用のポイントについてご紹介します。
環境調整とは?
環境調整といってもさまざまですが、今回はご自宅の家屋環境についてご説明します。
手術後、歩くことができれば退院後の生活は問題ないと思っている方が多くいらっしゃいます。
歩くことができれば退院後の生活は楽になりますが、『歩ける=生活が問題ない』というわけではありません。
なぜだかわかりますか。
生活は歩く以外に、入浴やトイレ、寝起きなどさまざまな生活動作によって成り立っているからです。
退院後の生活をより楽に、介護量を少なくするためには、生活動作をしっかりと考えていかなければなりません。
リハビリで生活動作が問題なく行えるようになればベストですが、高齢者の場合なかなかそうはならないのが現実です。
例えば、歩くことができたとしても床に引いた布団から立ち上がることができなければ、介助が必要になります。
この方の場合、歩けても朝起きる時や夜中トイレに行く時は誰かの介助が必要となります。
しかし自宅環境を少し変えるだけで一人で行えるようになります。
方法として布団をベッドに変更します。
ベッドに変えることで床にしゃがまずに寝起きが出来るようになります。
こうすることで床からの立ち上がりをしなくていいため、一人で起きることができトイレにも行けるようになります。
このように身体機能だけではできないことに対して、ベッドや手すりなどを使い自宅環境を調整していくことがとても重要となります。
それでは各生活場所でポイントなる部分をご紹介していきます。
玄関でのポイントとは?
玄関は生活動作の中でとてもレベルが高い場所の一つです。
特に玄関の上がり框(あがりかまち)がクセ者です。
日本の家屋は、玄関で靴を脱いで一段上がって家に入る構造が特徴です。
この段の部分が上がり框であり、ご自宅へ出入りする時に必ず使う場所です。
退院後にデイサービスに通われる方が大勢いらっしゃいますが、デイサービスから来る迎えを玄関先で待っていなければなりません。
そのため上がり框の昇り降りができるようになることがとても重要です。
最近のご自宅はバリアフリーになっていることが多く、比較的段の高さが低く作られています。
しかし十数年前に建てられたご自宅の上がり框は高く、高さ30〜40㎝程度のご自宅もあります。
30〜40㎝と聞いてあまり高くないと感じる方もいらっしゃると思いますが、高齢者にとってはかなり高いです。
このような場合にどうすれば良いのかご紹介しましょう。
一つ目は手すりの設置です。
手すりを利用することで腕のチカラも使え、しっかりと支えられるようにします。
多くのご自宅には靴箱が設置してあると思いますが、靴箱を手すり代わりに使っている高齢者の方もいらっしゃるため、安全であればそれでも構いません。
二つ目は台を置き2段にします。
30㎝の上がり框に15㎝の台を置くことで、15㎝の段差が2段になります。
上がり框の高さを低くすることで登れるようになる方が多くいらっしゃいます。
手すりと台を使用した玄関の一例をご紹介します。
こうすることで楽にできるようになる方が大勢います。
トイレ環境のポイントとは?
トイレのポイントは便座の高さです。
便座の高さが低いと立ち上がりが非常に大変です。
対応策として、一つ目は手すりの設置です。
手すりがあれば立ち上がれるようになることが多くあります。
二つ目は便座の高さを上げます。
方法として便座の上に補高便座を設置します。
便座が高くなることで楽に立てるようになります。
三つ目は便器自体の交換です。
これはあまり現実的ではありませんが、金銭面に余裕がある方は思い切って身体に合った物に交換するのもありかもしれません。
お風呂場でのポイントとは?
お風呂は生活動作の中でも一番といっていいほど大変な動作です。
シャワーだけであればそこまで大変ではありませんが、浴槽に入るとなると大変になります。
多くのご自宅は脱衣所より浴室の方が数㎝下がっているのではないでしょうか。
高齢者はこの低い段差でもつまずいてしまうため、手すりの設置または浴室床に“すのこ”などを敷いて段差をなくしましょう。
身体を洗うときにシャワーチェアー(椅子)に座って行うことをオススメします。
床に座って行う方もいらっしゃいますが、立ち上がるときに滑って転倒する恐れがあるためシャワーチェアーのほうがいいでしょう。
シャワーチェアーも性能によって値段がピンからキリまであり、背もたれの有無、肘掛けの有無、滑り止めの有無などさまざまです。
身体機能に合わせてシャワーチェアー選択を行ってください。
こちらは背もたれあり、手すりなしのシャワチェアーの一例です。
次に浴槽への出入りについてです。
浴槽の出入りで大変なのは足を高く上げることです。
安全に足を上げるにはしっかりと手で支えられる環境が必要になります。
そのためには手すりの設置がいいでしょう。
手すりにも種類があり、壁に取り付けるタイプや簡易的に浴槽に取り付けるタイプなどあります。
ちゃんとした福祉用具であれば、後者でも問題ありません。
手すり以外にはバスボードもオススメです。
バスボードに座ったまま浴槽へ足を入れられるため、転倒する可能性が減ります。
寝室でのポイントとは?
布団を使われている方はベッドに変更することをおすすめします。
ベッドも色々ありますが、立ち上がりやすい高さを考えると40〜45㎝程度の高さがあったほうがいいでしょう。
ベッドは介護保険でレンタルもできますし、ホームセンター等でも購入できます。
ベッド柵が必要な場合は柵が取り付けられるベッドを選びましょう。
介護保険を利用しての住宅改修とは?
みなさんは介護保険サービスを利用して住宅改修や福祉用具のレンタルをできることをご存知ですか。
介護保険を利用して住宅改修を行った場合、支給額は支給限度基準額(20万円)の9割(18万円)が上限となります。
実質負担額は1割の2万円です。
介護保険を利用しての住宅改修は基本的にひとり生涯20万円までの支給限度基準額となりますが、例外があります。
例外の一つ目は、要介護状態が3段階上がった場合です。
例えば要介護1のときに住宅改修をして、その後要介護4に上がった場合に再度支給を受けることができます。
例外二つ目は、引っ越しをした場合です。
この場合は再度支給限度基準額が20万円に設定されます。
次に介護保険を利用しての福祉用具レンタルについてご紹介します。
各介護度によって利用できる金額は違いますが、その範囲内であれば介護保険を利用してレンタルできます。
例えばベッドや手すり、スロープ、歩行器などがレンタル可能です。
ここで注意していただきたのが、レンタルができない福祉用具があるということです。
基本的に利用者の肌が直接触れるものに関しては購入となります。
例えばポータブルトイレ、シャワーチェアー、簡易浴槽などです。
購入になったとしても、介護保険を利用すれば1割負担で購入が可能です。
このように介護保険サービスを利用することで住宅改修、福祉用具のレンタルや購入の補助を受けることができます。
介護保険の利用方法とは?
介護保険サービスを利用するには、まず介護保険を取得することが必須になります。
介護保険をお持ちでない方は介護保険サービスを受けることができません。
たまに勘違いされている方もいらっしゃるため、簡単にご説明します。
基本的に介護保険は自動的には配布されません。
介護保険を取得するには最寄りの役所へ介護保険申請しに行くことが原則となします。
役所の福祉課などの担当窓口へ行き、介護保険の申請を行ないます。
申請後、担当者が実際に利用者のところへ伺い状態を確認します。
その利用者の状態と主治医意見書を元に会議が開かれ、介護保険の区分が決定されます。
介護保険を申請してから交付されるまで約1ヶ月程度かかるため、介護保険サービスを利用する予定の方は早い段階で介護保険申請をしておくことをオススメします。
介護保険が交付され実際に利用するにはケアマネージャーが必要になります。
そのためケアマネージャーを依頼しなければなりません。
介護区分が要支援の方は最寄りの地域包括支援センター、要介護の方は最寄りの居宅介護支援事業所へご連絡しましょう。
ケアマネージャーが決まり次第、担当ケアマネージャーと一緒に話が進んでいきます。
ケアマネージャーは介護保険サービスのプロのため、色々をご相談してみるといいでしょう。
以前に介護保険の申請方法や詳細についてご紹介しています。
詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
まとめ
今回は退院後にご自宅で生活するにあたり、環境調整やサービス利用のポイントについてご紹介してきました。
高齢者で多い大腿骨近位部骨折後は入院前と同じレベルまで回復することは難しいです。
そのため身体機能で足らない部分を手すりなどの福祉用具を利用し、環境面で補うことがとても重要となります。
特に玄関やトイレ、寝室、浴室といった日常生活で毎日使う場所の環境調整をすることがポイントです。
高齢者にとってみなさんが思っている以上に自宅内には障害物があります。
みなさんも一度、ご自宅の環境ついて考えてみてはいかがでしょうか。
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