変形性股関節症の手術の多くは人工股関節全置換術(THA)です。
人工股関節の手術後は日常生活で必ずに注意しなけらばならない点があります。
今回は人工股関節全置換術の手術や生活での注意点や脱臼管理の方法、手術後のリハビリについてご紹介します。
変形性股関節症とは?
変形性股関節症とは、長い間繰り返される負担、ケガなどによって、骨が変形したり軟骨がすり減ったりすることで、痛みが生じたりする病気です。
特徴として50~60歳代の中高年の女性に多くみられます。
原因として、明らかな原因と特定できない一次性股関節症と、なんらかの原因を推定できる二次性股関節症とに分類されます。
一次性股関節症は外国人に多く、肥満や重労働などによって起こるとされています。
二次性股関節症は、乳児期の先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全症によるものが多いとされています。
しかし、乳児期の臼蓋形成不全は基本的に自然改善するのが通説です。
そうすると成人の臼蓋形成不全どのように成立するのかまだ謎が多いのが現状です。
変形性股関節症の病態や治療とは?
変形股関節症の病態として関節の狭小化(関節が狭まること)、骨棘の形成(骨が尖ること)、関節の変形、骨嚢胞(骨に穴が開くこと)などが起こるのが特徴です。
変形性股関節症は徐々に症状が進行し、関節が変形していく病気です。
そのため関節に負担をかけずに生活をしていくことが重要になります。
以前に変形性股関節症の詳細、関節への負担の減らし方についてはご紹介しています。
ご興味がある方はこちらをご覧ください。→変形性股関節症についてはこちら。
変形性股関節症の治療として第一選択は保存療法でのリハビリが選択されます。
リハビリを数ヶ月実施し、それでも痛みが減らず日常生活に支障をきたしているようであれば人工股関節全置換術(THA)という手術を行います。
人工股関節全置換術(THA)とは?
変形性股関節症の手術は人工股関節全置換術(THA)が有名です。
人工股関節全置換術を行う目的として、痛みにより日常生活が低下していたのに対し人工の関節に変えることで痛みを軽減させ日常生活を楽に過ごせるようにすることです。
そのため手術前より手術後の方が活動範囲が広くなることがほとんどです。
それでは人工股関節全置換術のご紹介をします。
人工股関節全置換術は股関節の大腿骨頭と寛骨臼(臼蓋)の両方を人工のものに交換します。
大腿骨頭と寛骨臼はこの部分です。
似ている手術として、大腿骨頸部骨折で行う人工骨頭置換術があります。
これは大腿骨頭のみを交換する手術であり寛骨臼の交換はしません。
では、もう少し手術について詳しくご紹介します。
まず人工の股関節をイラストで見てみましょう。
このような物を大腿骨に入れます。
引用1)
これを大腿骨頭と寛骨臼の部分の入れ替えをします。
手術はこのように行います。
引用2)
手術後の関節はこのように人工の股関節になります。
引用1)
このように変形した大腿骨頭と寛骨臼の部分を交換することで、変形した部分で起こっていた痛みは消失します。
手術後に現れる痛みとして、手術で切ったところの痛みや筋肉が硬くなっていることによる痛みがほとんどです。
炎症による痛みは炎症管理をしっかりと行えば1〜2週間程度でおさまります。
筋肉による痛みは、手術前から硬くなっていた筋肉や手術後に力が入ってしまって痛い場合などさまざまな原因があります。
この痛みはしっかりとリハビリを行えば緩和することがほとんどです。
手術後の生活での注意点とは?
人工股関節全置換術で最も注意する点は股関節の脱臼です。
手術により人工の股関節に入れ替えているため、脱臼する可能性があります。
脱臼しないためには日常生活で注意しなければならない重要ポイントがあります。
重要ポイントはとして、脱臼する股関節の動かし方は2パターンあります。
一つ目は股関節を曲げながら内側にひねると脱臼します。
要するに内股になると脱臼するということです。
二つ目は足を後ろに伸ばしながら外側にひねると脱臼します。
必ずこの脱臼姿勢を覚えましょう!
なかでも内股での脱臼が多いため、内股にならないようにすることが重要です!
まず内股の判断の仕方についてご説明します。
これは股関節が中間位(真ん中)の姿勢です。
これが内股(股関節内旋位)の状態です。
膝が内側に入ると内股になります。
これがガニ股(股関節外旋位)
常にこの姿勢を意識しましょう。
膝が外を向いていれば股関節が内股になることないため、脱臼する確率がほぼなしになります。
それでは特に日常生活で脱臼が起こる可能性が高い動作をご紹介します。
《靴や靴下の着脱動作》
特に女性の場合、このように靴や靴下を履く方もいらっしゃるのではないでしょうか?
これは完全に脱臼する姿勢です。
股関節が内側に入り曲がっています。
靴や靴下を履く場合は必ずガニ股で行いましょう。
ガニ股で行うことで脱臼姿勢を取らずに行えます。
《物を拾う動作》
椅子に座った状態で床の物を取るときも脱臼する可能性が高いです。
このように手だけで取りに行くと股関節が内側に入り脱臼してしまいます。
この場合、体を向けて足の間にものを起き取るようにしましょう。
靴下や靴の着脱動作 と 床の物拾い動作 は日常生活でよく起こる脱臼場面のため注意しましょう!
次に股関節が伸びた状態で脱臼するパターンについてご紹介します。
《洗濯動作》
日常生活が起こりやすいのが洗濯動作です。
特に起こりやすい場面として、高い位置に洗濯を干そうとした時に脱臼してしまいます。
このように股関節を伸ばしすぎることで脱臼します。
脱臼を防ぐために低い位置に洗濯物を干すようにしましょう。
こうすることで股関節は伸びずに脱臼する危険性が減ります。
もし脱臼してしまった場合、医者が手で脱臼を整復しますが治らなかった場合は再手術となります。
一度脱臼すると脱臼クセがついてしまい、人工股関節にも負担がかかるため人工股関節自体の寿命にもつながってきます。
そのため脱臼しないように常に気をつけることが重要です。
多くの患者さんから、手術してどのくらいしたら脱臼しなくなるのか聞かれることが多くあります。
脱臼する可能性は一生あります。
手術して筋肉がつき股関節が安定してくると多少脱臼しにくくなりますが、脱臼しなくなることはありません。
そのため常に脱臼をしないように動作に注意し生活をすることが重要です。
これは入院中に理学療法士や看護師からも、かなり指導されると思います。
それほど脱臼には注意が必要ということです。
手術する前は意識せず行っていた動作が、手術後は脱臼姿勢となり行ってはいけない動作となります。
これから手術を受ける予定の人は、今から脱臼姿勢をとらないような生活動作の練習をしておきましょう。
日常生活動作での脱臼原因以外に、人工関節自体の構造や手術による影響があります。
人工関節自体の構造や手術による影響についてはこちらでご紹介しています。
ご興味がある方はどうぞ。
手術後のリハビリとは?
手術後のリハビリについてご紹介します。
リハビリは手術翌日より開始となります。
リハビリの初日は痛みが強いことが多くベッドの上で行うことがほとんどです。
リハビリ2日目から車椅子に移りトイレ動作の練習や立つ練習等を行います。
3日目から歩く練習が開始となり、痛みに合わせどんどんステップアップしていきます。
おおよそ3週間で退院となります。
この3週間の内に、階段昇降や床からの立ち上がり動作、入浴動作等の練習も行います。
退院時の歩行レベルとして、屋内は杖なし歩行、屋外はT字杖歩行で退院するケースが多いです。
手術後に特に注意していただきたいことは炎症の管理です。
人工股関節全置換術は大きな手術のため、手術後は熱を持ったり腫れが強いです。
炎症がある状態だと痛みが取れるのが遅れリハビリの進行に影響がかなり出ます。
そのためアイシングでしっかりと冷やすことがとても重要になります。
アイシングのポイントは、溶けてない氷でしっかりと20分冷やし40分休憩し、また20分冷やすというサークルを常に行うことです。
アイシングについて詳しくはことらでご紹介しています。
ご興味がある方はご覧ください。→効果的な炎症管理方法はこちら。
炎症管理に加え、入院中にしっかりと脱臼管理をマスターしましょう!
退院後の生活とは?
退院後は外来リハビリで通うことが多いです。
外来リハビリに通いながら日常生活の活動範囲を広げていきます。
この手術は手術前の生活より良くすることを目的としているため、極端に生活を制限する必要はありません。
中には毎日プールに通っている方もいらっしゃいます。
日常生活そのものがリハビリになります。
日常生活に加え趣味などを楽しむことがとても重要です。
今まで痛みでできなかったことを行い、楽しんでみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は変形性股関節症の方に対する人工股関節全置換術(THA)についてご紹介してきました。
この手術は臼蓋と大腿骨頭を人工の関節に変えているため、脱臼するリスクがあります。
人工股関節全置換術で一番大切なことは脱臼の管理です。
日常生活で脱臼する可能性が高い動作として、靴や靴下の着脱動作、床のものを拾う動作、洗濯物を干す動作です。
一度脱臼すると脱臼クセがついてしまったり、人工股関節に負担がかかるため人工股関節自体の寿命にもつながってきます。
そのため脱臼には常に注意が必要です。
この手術の場合、脱臼には注意は必要ですが、目的は手術前の生活より良くするということです。
そのため活動範囲を狭める必要はありません。
日常生活に加え趣味も楽しむことが非常に重要なことです。
脱臼の注意点をしっかりと覚え、楽しい生活を送れるようにしましょう!
参考・引用文献
1)勝呂徹:(2)人工関節をみてみよう.整形外科看護20(1).11-16, 2015.
2)内田裕美:(6)人工股関節置換術.オペナーシング29(2).131-135, 2014.
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