スポーツ現場では、ケガの応急処置や判断がとても重要になります。
今回は、捻挫や打撲、骨折の判断や応急処置、治療などについて解説します。
スポーツにはケガはつきものですよね。
ケガをしたあとの応急処置はとても重要ですが、指導者や保護者の方で応急処置についてわからない方も多くいます。
それでは、ケガで特に多い捻挫や打撲、骨折について説明します。
なぜ応急処置が重要か
現場でなぜ応急処置が重要なのでしょうか。
応急処置をすることで、早期にスポーツに復帰できることや、しっかりと判断し医療機関を受診することでケガの悪化を防ぐことができます。
それでは、ひとつずつ解説していきましょう。
捻挫の応急処置や判断とは
捻挫とは
『捻挫だから大丈夫!』そう思っていませんか?
これは非常に危険です。
2017年に全国版ニュースで、フィギュアスケートの羽生結弦選手が練習中に外側側副靭帯損傷をしてしまい、翌日のNHKグランプリファイナルを欠場するといってことがありましたよね。
実は、この外側側副靭帯損傷は捻挫のことです。
トッププレーヤーは捻挫で大事な大会を欠場し、さらに練習も負荷量を調整したり休暇を取りますが、小学生や中学生はどうでしょうか?
捻挫ぐらい大丈夫といって、すぐにスポーツ復帰していませんか?
捻挫=靭帯損傷ということをしっかりと理解しておくことが大切です。
捻挫についてもう少し詳しく解説します。
外側側副靭帯とは、足首の外側にある靱帯です。
足首の外側には、前距腓靱帯(ぜんきょひじんたい)、踵腓靱帯(しょうひじんたい)、後距腓靭帯(こうきょひじんたい)があり、特に前距腓靭帯の損傷がとても多いです。
この靱帯は足首を伸ばしてたまま内側にひねると最も伸ばされます。
そのため捻挫で最も損傷しやすい靱帯です。
捻挫の発症頻度や割合とは
では、捻挫はどのくらい頻度で発症するのでしょうか。
捻挫は非常に多いケガの一つで、骨折や筋肉のケガである筋骨格系疾患の約1/4を締めます。
また、捻挫は1日に1万人に一人の割合で起こるとも言われています。
〜捻挫の割合〜
□筋骨格系疾患の1/4を締める
□捻挫:1日あたり、1万人に1人の割合で起こる
例えば、人口30万人の○○市があったとします。
捻挫は1万人に1人の割合なので、○○市では1日に30人の人が捻挫をしている計算になります。
また捻挫は筋骨格系疾患の1/4を締めるため、捻挫以外の筋骨格系疾患を含め計算すると、
捻挫30名×4=120名
○○市では、1日に骨折や関節、筋肉のケガをする人は全員で120名おり、そのうちの30名が捻挫という計算になります。
この割合をみると、捻挫は非常に多いことがわかると思います。
捻挫の症状とは
それでは、捻挫の症状を見ていきましょう。
〜捻挫の症状〜
□腫れ
□熱感
□体重をかけると痛い。でも歩ける
□足首の内出血
□足首の外側の痛み
このような症状が見られます。
足首をひねった場合、捻挫の他に骨折などの重症なケガのケースもあります。
その場合に注意して見るポイントを次でご紹介します。
捻挫の判断
それでは、捻挫の判断についてご説明します。
競技中に足首をひねって捻挫かもしれないって思うことはありますよね。
そのときに重要なことは、、、
捻挫のか?捻挫ではないのか?を調べるのではなく、足首は骨折しているのか?していないのか?を調べることが大切です。
足首をひねっている時点で、捻挫をしている可能性は十分にあります。
しかし、捻挫は急いで救急搬送するかというとしませんよね。
救急搬送や医療機関をすぐに受診しなければならないのが、骨折や脱臼です。
足首をひねった時点で捻挫以上のケガをしている可能性は十分にあるため、大切なのは骨折や脱臼をしているかどうかの判断です。
それを確認するポイントは次の3つです。
〜チェックポイント〜
□変形がないかどうか
□著明な腫れはあるか
□体重をかけられるかどうか
□変形がないかどうか
変形していると骨折している恐れがあります。
捻挫は、靱帯の損傷であるため、基本的には変形は起きません。
□著明な腫れ
捻挫でも足首は腫れますが、骨折をしているとそれ以上に腫れます。
明らかに腫れが強い場合は骨折をしている可能性があります。
□体重をかけられるかどうか
捻挫でも体重をかけると痛みは生じます。
しかし、捻挫は靱帯の損傷であり、骨自体は損傷をしていなので、少なからず体重をかけることはできることが多いです。
骨折の場合は、体重を支える骨が折れてしまっているので、体重をかけると激痛が生じます。
そのため体重をかけられない場合は骨折をしている可能性があります。
最低限この3つのポイントを抑え、これに加え他の症状も踏まえて、救急搬送や医療機関の受診を判断しましょう。
捻挫の応急処置とは?
捻挫後の対応として、まずは次の4つをを行います。
〜RICE療法〜
□R(rest):安静
安静は、横になって寝るという意味ではなく、無理に足を動かしたり、歩いたりしないようにしましょうということです。
痛みがある中で、歩いたり競技復帰すると悪化する恐れがあります。
□I(Ice):冷却
アイシングをする、しないに関しては賛否両論あります。
海外の論文では、アイシングをすると損傷部位の修復を妨げてしまうという報告もあります。
アイシングを行うのは48時間を目安に行い、それ以降はあまり冷やしすぎないようにしましょう。
アイシングをする際のポイントは次の3つです。
〜ポイント〜
□アイシング時間:20分冷やす+40分休憩
□凍傷に注意
□氷は平らに作る
アイシングで最も注意しなければならないのが、凍傷です。
冷やしすぎないように、20分冷やし40分休憩を1サークルとし、これを繰り返しましょう。
□C(compression):圧迫
受傷後、5〜10分ぐらいするとどんどん腫れてきます。
足を下に降ろしているとさらに腫れてしまい、痛みも増悪してしまいます。
痛みを減らすには、患部を圧迫し、腫れを抑えます。
腫れを抑えるだけでも、かなり痛みは抑えられますので是非行ってみましょう。
□E(elevation):挙上
挙上もとても大切です。
椅子に座り足を降ろしていると、重力で足が腫れやすくなり痛みが強くなります。
横になり、足を高くしておくことで腫れが悪化するのを防げるので、圧迫と合わせて行ってみましょう。
捻挫後の内出血とは
捻挫のあとに足首周りが内出血を起こすことがあります。
内出血は、皮下出血のことであり、関節の中が出血しているわけでなく、比較的皮膚に近い部分での出血です。
内出血は数日で引けてくるため、無理にマッサージをしたり押したりしないようにしましょう。
内出血を早く引かせる方法として、医療機関では超音波療法などを行ったりしますが、ご自宅ではそのような機器はないため、先程ご紹介したRICE療法で捻挫の対応をしっかりとしてもらえればいいでしょう。
捻挫の後遺症とは
捻挫は靱帯損傷ですが、軽視されやすい特徴があります。
捻挫の治療をしっかりとせずにスポーツ復帰などをするとどうなるでしょうか。
報告によると、、、
しっかりと応急対応や治療をしなければ、30〜40%の患者は、後に何かしらの障害を残すと言われています。
しっかりと治療を行わないと、足関節の不安定性が残ったり、痛みが残存したりします。
また、スポーツ復帰後に再び捻挫してしまうこともあります。
この状態を続けていると、捻挫グセになったり、骨に負担がかかり変形性足関節症になってしまうこともあります。このような後遺症を防ぐためには、捻挫を受傷したあとの対応がとても大切になります。
捻挫の治療やトレーニング方法、スポーツ復帰、手術など、詳しい解説はこちらで行っています。
是非目を通しておくといいと思います。
⇒捻挫の治療やトレーニング、スポーツ復帰、手術の詳しい解説はこちら。
打撲の応急処置や判断とは
打撲とは
打撲とは、何らかの外力によってカラダの一部に衝撃を受けて起こる、皮膚および軟部組織(筋など)への損傷のことをいいます。
スポーツで多いのが、サッカーなどで膝が相手の太ももに当たることで起こります。
いわゆる「ももかん」のことです。
サッカー以外でも、ラグビーのタックルや野球のデットボールなどで起こります。
打撲の症状とは
打撲の症状として、次のようなものが見られます。
〜打撲の症状〜
□患部に痛みがある
□患部が腫れる
□皮膚の下に出血が起きる(皮下出血)
□関節部であれば関節の動きが悪くなる(曲がらなくなる,伸びなくなる)
□重症になるにつれ、膝が曲がらなくなる
打撲の判断とは
打撲が疑われる場合に注意することは、骨折かどうかを見極めることです。
〜チェックポイント〜
□安静にし、患部の状態を調べる。
□痛みのある部位に変形がないか確認
□左右を比べ変形を確認
□腫れや皮膚の色の変化を確認
最低限、この4つをチェックします。
変形が強い場合は骨折している可能性があるため、医療機関へ搬送します。
打撲の応急処置
打撲の応急処置について説明します。
打撲は外力が加わることで起こりますが、外力によって筋肉の血管が損傷し、出血を起こします。
これにより足が腫れ、痛みが生じます。
これを防ぐには、弾性包帯で圧迫し出血を抑えます。
またサッカーで多い大腿部であれば、圧迫をしながらしっかりと膝を曲げて行います。
このときに膝が曲がらなければ骨折をしている可能性が考えられるため、医療機関を受診しましょう。
2日ぐらい経っても症状がかわらない場合は、医療機関を受診しMRIなどの検査を行うこともあります。
骨折の判断と応急処置とは
骨折とは、その名の通り骨が折れることです。
骨が完全に折れても骨折ですし、骨にひびが入っても骨折です。
実は骨が折れても痛みは生じません。
なぜ痛みが生じるのかというと、骨は骨膜という膜に覆われており、この骨膜には痛みを感じるセンサーが備わっているため、骨が折れ骨膜も損傷することで痛みが生じるようになります。
骨折の症状や対応
骨折の症状はこちらです。
〜症状〜
□痛み
□強い腫れ
□変形がある
□叩打痛がある
このような症状がみられます。
完全に骨が折れている場合は変形がみられますが、ひびなど完全に骨が折れていない場合は変形が見られないケースもあります。
叩打痛とは、骨を叩くことで生じる痛みです。
骨が折れていなければ骨を叩いても痛くありませんが、骨が折れていると軽く叩くだけでも痛みが生じます。
しかし、受傷直後は骨折に限らず打撲や捻挫でも触っただけでも痛みが生じるため、叩打痛があるから骨折とは限りません。
色々な症状を加味して、骨折が疑われる場合は医療機関を受診しましょう。
上記の症状に加え、開放創の有無も確認します。
激しい骨折の場合、骨が皮膚から飛び出してしまうことがあります。
受傷部位を確認し、開放創がないか確認し、もしあるようであれば止血をします。
止血は患部にガーゼなどを当てます。
止血する際に手に血液が付着する恐れがあるため、手袋やビニール袋などをつけて、直接血液に触れないようにしましょう。
理由として、ケガをした人が感染症を持っていた場合、その血液に触れることで感染してしまう恐れがあるからです。
例えばB型肝炎や梅毒などです。
とっさの場面でも、血液に触れるときは注意しましょう。
まとめ
スポーツ現場で応急処置はとても重要です。
現場で求められることは、骨折や捻挫の診断ではありません。
なぜなら、私たちは医師ではないからです。
重要なのは、その場で対応できるものなのか、それともレッドフラッグで医療機関に搬送すべきなのかの判断です。
少しでも骨折などの重症の疑いがあるものは、無理せず医療機関を受診しましょう。
参考文献
□土屋明弘:アイシングの適応と注意点,臨床スポーツ医学32(5),484-487, 2015.
□橋本健史:骨折,脱臼などが発生した時の対応,臨床スポーツ35(2),202-206,2018.
□日本整形外科学会HP:スポーツ外傷の応急処置
□公益財団法人スポーツ安全協会:救急ハンドブック